進化する小さな共同体『open country』

孤独になりがちな都会でつながりを取り戻そうとする、あるハイキングコミュニティの物語。

  • Photograph:Nathalie Cantacuzino
  • Text:James Koji Hunt

東京は時に孤独を感じる場所だ。レストランやバーは常に満員で、交通網はたくさんの人々を物理的に結びつける。それでも、人間同士の本物のつながりや体験を得るのが難しいと感じることがある。COVIDやワーク・フロム・ホーム、さらには文化的・社会的な圧力の影響を受けて、日本人も外国人も現在の東京では孤独を味わっている。『open country』は、こうした背景の中で誕生した。

2022年にルーシー・デイマンと和久井駿によって始まったハイキングクラブ『open country』は、実際にはハイキングクラブの枠を超えたものだ。それは「友達と一緒に何かをするのは楽しい」というとてもシンプルで普遍的な真実から生まれたコミュニティなのだ。『HERENESS』は現在の主催者であるディーン・アイザワとアイリーン・カオ、エイドリアン・ウォンと共に、最新の『open country』の冒険に参加した。それは神奈川県藤野でのハイキングだ。

すべての人を受け入れる

ディーンとアイリーンと話していると、“アクセシビリティ”というキーワードが頻繁に飛び出す。

「どんな装備を持っているかとか、アウトドアの技術があるかなんてことに関係なく、とにかく外に出ることが大事なんだ」と、東京を発った電車の中でディーンが話してくれた。

イベント参加に車が必要ないという事実もそれを物語っている。僕らはどちらも軽装で、僕が持っているのはペン、ノート、ウォーターボトル、ディーンが持っているのは小さなリュックサックに入った細い絵筆と小さな缶箱に入った水彩絵の具だけ(ディーンはプロのアーティストで、ハイキング中に小さなワークショップを開く予定だ)。

午前9時、集合場所である相模湖駅に到着すると、ほとんどが外国人で占められた小さなグループをアイリーンがゆるやかな輪へと整える。参加者がゆっくりと隣のメンバーと会話を始め、見知らぬ者同士がすぐに打ち解けていく。それを眺めるのは素晴らしい体験だ。

時計回りに自己紹介をする間、僕は参加者の国籍を素早くメモに取ってリストに整理した。アメリカ、スペイン、イギリス、カナダ、日本、スウェーデン、オーストラリア、韓国、台湾。『open country』は確かに多彩なメンバーで構成されている。


ハイキングはただのメディア

出発すると、メンバーは自然と自分たちのリズムで小さなグループに分かれていく。僕はカナダ出身のマヤと彼女の母親と、日本の蒸し暑い夏に慣れることの難しさについて話した。ニューヨークから最近引っ越してきたダミは、日本のゴミ出しルールの複雑さについて語る。ベンは芸術キュレーションへの愛と日本語の修士課程の勉強の難しさを説明してくれた。

「ハイキングは、ただ歩くってだけではなくて、会話の時間でもあるんだ。そう思わない?」とディーンは僕に問いかける。

自然の中を歩くという行為は、どういうわけか瞬時に人の心を開き、いつの間にか目の前で進化しているこの小さな共同体の一員になったような気にさせる。


自然の流れに任せる

今日のハイキングは、新井聡子さんが経営する野生のオーガニック“スローフラワー”農園『four peas flowers』が運営する花摘みがアクティビティの中心だった。『open country』と『four peas flowers』の関係は、コミュニティがいかに自然に発展していくかを物語っている。聡子さんはハイキングの参加者の友人で、そこから自然にこのイベントに発展していったそうだ。僕たちは花畑の中にある大きな木の陰に座り、熱心に弁当を頬張りながら冷たいアイスティーを飲み干した。

 

ほんとうの開放感

昼食後、僕たちはまた散り散りになって、野花の茂みから花を摘み取りブーケを作る。それはまるで性格診断テストのように個性的だ。 そして、まさにこの感覚こそが、このコミュニティを特別なものにしている。そこには、ルールと適合性にあふれた都会には存在しない、真の開放感がある。花畑でメンバーとすれ違うたび、僕は花を摘むのとほぼ同じペースでブーケを褒められた。茎が薄紫の花びらが内側にカールした花を選んでいると、「この色、好き!」とか、ブーケのアクセントに使っている鮮やかなオレンジ色の花を一輪摘み取ると、「キューーート!」といった具合だ。



賑やかな東京へ戻る電車に飛び乗る僕の片手には花束、もう片方にはノートが握られている。僕の初めての『open country』のハイキングをほぼ完璧に象徴するふたつの小さなお土産だ。ひとつは自然の大切さを思い出させるもので、もうひとつは道中で得た物語や人とのつながりが詰まっている。

『open country』は年中不定期にハイキングを主催しており、すべての人々に開かれている。年齢、国籍、ハイキングの能力に関係なく、コミュニティは参加者によって作られ、参加者のためのものだから、ぜひ参加してみて欲しい!イベントの最新情報は彼らのInstagramページで確認を。